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エンターテイメント


エンターテイメント197   2021.06
西行花伝 辻邦生

私の本棚でひときわ目立つのは、豪華な箱に入り、固い表紙(これぞハードカバー)の本は辻邦生の小説 新潮社刊「西行花伝」。 1995.4.30発行、私の本は1995.8.5  8刷。(かなり細かい字で)525ページ、小説一冊の価格としての3500円はかなり高かった。

その箱にある帯には、「構想30年美に生きる乱世の人間を描き続けた辻文学の集大成」「美と行動の西行の生涯を浮かび上らせた絢爛たる歴史小説」とあり。
帯の裏側には、「私自身が現実を超え、美と優位を心底から肉化できなければこの作品を書いても意味がない。そんなぎりぎりの地点で生きていたような気がする」ー 辻邦生 とある。

不世出の天才歌人、西行の生涯を多彩な音色で歌いあげた交響絵巻。全身を震わせ全霊を賭けた恋だったのに。

花も鳥も風も月も――森羅万象が、お慕いしてやまぬ女院のお姿。なればこそ北面の勤めも捨て、浮島の俗世を出離した。笑む花を、歌う鳥を、物ぐるおしさもろともに、ひしと心に抱かんがために……。

高貴なる世界に吹きかよう乱気流のさなか、権能・武力の現実とせめぎ合う“美”に身を置き通した行動の歌人。流麗雄偉なその生涯を、多彩な音色で唱いあげる交響絵巻。谷崎潤一郎賞受賞。

最初読むまでは西行といえば、旅に生き旅に死する歌人くらいの漠然とした印象しかなかった。剛毅な「北面の武士」だったことすら知らなかった。

本作品は森羅万象(いきとしいけるもの)を西行という花の生き様を通して紡ぎ出す、壮大な一大交響曲である。月や花を愛で、素晴らしい和歌を産み続けた西行。現世に背を向けたのではなく、何よりもこの世を愛しんでいたーそのまなざしが西行の魅力である。


今年の桜は全国的に早かった。毎年サクラの花を観ると、この小説が浮かんでくる、二つの理由で。一つは小説の中で慕ってやまぬ女院の夜桜鑑賞の警護の役割を担った時の風景。もう一つは吉野山西行庵のこと。

吉野山 金峯神社右手にある山道を500メートルほど歩くと、この西行庵に辿り着く。 平安末期〜の歌人「西行法師」が住んでいたとされる場所。周辺には数十本のヤマザクラが植えられており、山奥の中で観る桜の花は実にしんみりとした気持ちにさせてくれるそうだ。

ただ一度だけ結ばれた待賢門院への想いを抱き続けた西行の生涯、 叶わぬものこそ美しいのかも。この作品の奥深さというか、読んで感じた感想をうまく表現できないのがもどかしい。

  


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