ひろ爺のえっせー 2月号
産経新聞「ビブリオエッセー」
守るべきもののために あの戦争の最末期、1945年8月9日にソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して参戦してきたことを知ったのは社会人になってからだった。当時、学校ではこんな近い歴史も教えてはくれなかった。ましてポツダム宣言受諾後に千島列島の北東端にある占守島でこんな戦いがあったことはかなり後まで知らなかった。この小説は国境の島をめぐる戦争と人間のドラマだ。 最後の夏、本土決戦を見据えた大規模な動員計画の中で召集された3人。45歳の翻訳書編集者と歴戦の軍曹、若い医師を主人公に物語は進む。行先は占守島。 ソ連軍が島へ攻め込んできたのは終戦から3日後の8月18日未明だった「終わってから仕掛けてきた戦争なのだ。日本はすでに敗戦国であり戦うことは許されなかったが・・・。 島へ送られたソ連兵の複雑な心境も描かれている。「スターリンは僕らに、しなくてもよい戦争をしろと命じた」と語らせる。そしてソ連軍将校は報告書で日本兵をたたえて「領土を侵されてはならぬというこの上なく正当な理由によって彼らは果敢に戦いました」と書いた。 思い出すのは母から聞いた話だ。終戦の時、母と生まれて間もない私はピョンヤンに近い炭鉱の町に取り残された。父は現地召集で終戦となって先に引き揚げていたが私たちは帰れず、現地に留まった。その後ようやく引き上げることになり、2歳の私の手を引いた母はソ連兵を恐れて髪を短く切ったそうだ。戦時のことは多くを語らなかった母だけに記憶に残った。 浅田ファンの私はこの小説を何度か読んだ。今回はウクライナ進行や安倍元首相が凶弾に倒れたことなどがきっかけだが、改めて北方領土返還への思いがこみ上げてくる。 |