エンターテイメント 228 2024.5月号
読書・本 #51
「敦煌」 井上靖著
2024.4.1 (年度初め)産経新聞夕刊 ビブリオエッセーに掲載されました。これで5回目ラッキー!
産経新聞ビブリオエッセーは本年4月より週3回(いままで月〜金5回)の掲載となりました。
産経からの電話で、「月水金」の週3回となって初めての四半期第1週1日目に、私の文章を載せていただく旨電話がありました。
1回目 2022.8.19 浅田 次郎著 「終わらざる夏」
2 〃 2023.3.23 辻 邦生 「西行花伝」
3 2023.8.16 遠藤 周作 「深い河」
4 2023.10.6 司馬遼太郎 「十六の話」
5 2024.4.1 井上 靖 「敦煌」
下記は 新聞社編集担当との最終稿
ビブリオエッセー
【書名・著者】 「敦煌」井上靖(新潮文庫など)
【見出し】 心は時空を超えて西域へ
【筆者】 奈良県橿原市 松場弘人さん 79歳
いつもの散歩コースでこの本に出会った。江戸時代の町家や町並みが残る橿原・今井町の古書店である。掘り出し物の一冊を見つけるのが私の趣味で、その本は古い徳間書店版だった。『敦煌』。昔、映画で見た記憶がよみがえり、奥付の発行年を見ると昭和60年代。映画化の頃に出版されたものだと知った。
そういえば当時、「なら・シルクロード博」もあった。敦煌やシルクロードという言葉は今や懐かしい。井上さんの原作はそんなブームのずっと前、昭和34年の刊行だった。
中国は宋(北宋)の時代。進士の試験に落ちた主人公、趙行徳は開封の町をさまよい、一人の女を救う。それは西夏の女で、お礼にと一枚の小さな布片を渡された。書かれていたのは奇妙な西夏文字。たちまち興味をもった行徳は、はるかな異郷へ旅立つ決意をした。
行徳は城内で捕らえられ西夏の漢人部隊に配属され、回鶻人との戦闘に参加する。そこで上役の朱王令と出会った。幾多の戦いを共にし、互いを認め合い、後に西夏軍の敦煌進撃に反乱を起こす二人である。そこには二人が心を通わせた回鶻王族の娘の存在があった。行徳は仏典に目を開かれ、仏教へと導かれる。
沙州と呼ばれた敦煌は西夏によって壊滅していく。そこは仏教東漸の要のひとつとなる重要な場所であり、物語の圧巻は命を賭して莫大な経典類を守り抜く場面だろう。
敦煌という題名だけでシルクロードの砂漠や険しい山々、さまざまな異民族の姿などが浮かび、歴史のロマンをかきたてられる。この本の歴史地図や写真で想像がさらにふくらんだ。
そんなぜいたくな時間旅行。たった100円で買った古本のおかげである。
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