ようこそ HP ひろ坊爺さん 11 月号へ
エンターテイメント №224 2023. 11月
ビブリオエッセーまたまた掲載されました、4回目です
第1回掲載 2022.8.19 浅田次郎 「終わらざる夏」
〃2回目 2023.3.14 辻邦生 「西行花伝」
〃3回目 2023.8.15 遠藤周作 「深い河」
〃4回目 2023.10.16 司馬遼太郎 「十六の話」
【書名・著者】 「十六の話」司馬遼太郎(中公文庫)
【見出し】 華厳の一文に思い描いた西域
【筆者】 奈良県橿原市 松場弘人 79歳
書棚から『十六の話』を引き出した。「洪庵のたいまつ」「二十一世紀に生きる君たちへ」など有名な文章が並ぶこの本の中で、私は「華厳をめぐる話」が思い出深い。
「タクラマカン沙漠の縁辺にたたずむと、その巨大な空虚に圧倒される」。1行目から読者を引きつける。読みながら何十年も前、NHK特集の『シルクロード』を胸躍らせて見た記憶がよみがえる。あのとき、見たこともない西域という言葉に想像が膨らんだ。
司馬さんはシルクロードのオアシス都市に立ち、仏教のたどった道を印象深く書いている。砂粒の中の宇宙からインド文明と中国文明の話になり、釈迦に思いを巡らす。さらに華厳経の成立へと話は展開し、その真理は「あらゆるところに遍く満ちみち、あまねく照らす」と書いた。姿も色もない毘盧遮那仏が応身としての大仏へ。華厳への深い思いを語り、華厳宗の大本山、東大寺の話に入ってゆく。
このあと司馬さんは産経新聞の同僚だった写真家、井上博道さんとの出会いにふれた。東大寺を心から愛し、撮り続けたこの人のことを。実は私がある銀行の奈良支店に勤めていた頃、ご縁があって井上さんを知り、この「華厳をめぐる話」の「東大寺と井上博道氏のこと」という章に毛筆のサインをいただいた。東大寺つながりでもう1冊。あの清水公照師の『ありのまんまでええやないの』にもご縁があって師の毛筆のサインが書いてある。ともに宝物だ。
2冊の本から、私的な連想だが、お水取りのことや自分のサラリーマン時代の悲喜こもごもがよみがえる。いつも東大寺がそばにあった。
司馬さんの生誕100年の記事を読みながらこんな昔話を思い出している。