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エンターテイメント 228 2024.6月号
エンターテイメント230 2024.9月号
産経新聞 朝晴れエッセー 掲載文
大和の茶粥「おかいさん」
中学を卒業するまで茶粥で育った、私の田舎奈良の東吉野では茶粥のことを「おかいさん」といった。祖母が茶粥をつくる70年以上前のシーンをよく覚えている。かまどに鍋を置き、チャン袋(茶袋)に入れた番茶でコメを煮、木の杓子で掬っては落として吹きこぼれを防ぎ、出来上がるまでそばを離れなかった。絶品の茶粥の味は大阪市出身の今は亡き母が受け継いだ。
2020年7月、胃に進行性のがんが見つかり「ステージ4、余命6か月」の告知を受けた。胃の3分の2を切除する手術と抗がん剤で激やせとなり、ご飯やトーストが喉を通らない。そんな時、宇陀市に住む妹が鍋いっぱいの3代目「おかいさん」を持ってきてくれた。
がんとの闘いは、朝1杯のニンジンジュースと茶粥の朝食からはじまった。
4年経った今も生かされ、穏やかな余生を過ごすことができているのは、何のおかげなのだろうか。がんに打ち克つ人の特性に、体力・気力・食事力・娯楽力などがあって、諦めない気持ちを持っているかどうかだという。私の場合、医療の進歩と妻の献身が大きかったのだろうが、負けない気持ちの部分と食に対する執念、「おかいさん」のおかげも大きいのだろう。
8/17(土)産経新聞朝刊1面